この飛行家も死の危険を冒して、たゞ東京をめざして我無者羅に飛んで来た。百時間に近い時間、満足に睡眠もとつてゐない。たゞ、東京。それが全てゞあつたのだ。普通の不時着の飛行機なら、先づ飛び降りて、住民の姿を認めれば、それに向つて駈けだすのが当然である。ところが彼は漁師の近づいたことも気付かなかつた。救ひを求めることも念頭になかつた。生死を共にした友人のことすら忘れてゐた。さうして、たゞ、同じ海辺を行つたり戻つたりしてゐたのである。
 生命を賭した一念が虚しく挫折したとき、この激しさが当然だと思はずにはゐられない。これが仕事に生命を打込んだときの姿なのである。非情である。たゞ、激しい。落胆とか悲しさを、その本来の表情で表現できるほど呑気なものは微塵もない。畳の上の甘さはかういふ際には有り得ないのだ。
 潜水艦が敵艦を発見して魚雷を発射したときは、敵艦の最も危険な時でもあるが、同時に、潜水艦自身も最も危険にさらされてゐる時である。けれども、潜水艦乗りは、自分の発射した魚雷の結果を一秒でも長く確めたいといふ欲望に襲はれる。魂のこもつた魚雷である。魂が今敵艦に走つてゐる。彼等は耳をすます。全て
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