真珠
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)欠伸《あくび》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)クタ/\に
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 十二月八日以来の三ヶ月のあひだ、日本で最も話題となり、人々の知りたがつてゐたことの一つは、あなた方のことであつた。
 あなた方は九人であつた。あなた方は命令を受けたのではなかつた。あなた方の数名が自ら発案、進言して、司令長官の容れる所となつたのださうだ。それからの数ヶ月、あなた方は人目を忍んで猛訓練にいそしんでゐた。もはや、訓練のほかには、余念のないあなた方であつた。
 この戦争が始まるまで、パリジャンだのヤンキーが案外戦争に強さうだ、と、僕は漫然考へてゐた。パリジャンは諧謔を弄しながら鼻唄まぢりで出征するし、ヤンキーときては戦争もスポーツも見境がないから、タッチダウンの要領で弾の中を駈けだしさうに思つたのだ。ところが、戦争といふものは、我々が平和な食卓で結論するほど、単純無邪気なものではなかつた。いや、人間が死に就て考へる、死に就ての考へといふものが、平和な食卓の結論ほど、単純無邪気ではなかつた
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