よ。なあ」
 と、鼻ひげの親爺が破片をなでまはして残念がつてゐる。
「三四尺ぐらゐの下から出たべい」
「さう/\。四尺ぐらゐの所よ」
「今度あつたらよ。手で丁寧に掘りだすだよ」
 ガランドウはかう言ひ残して、僕達は墓地をでた。ガランドウは土器の発掘が好きなのである。時々、鍬をかついで、見当をつけた丘へ発掘にでかける。ガランドー・コレクションと称する自家発掘のいくつかの土器を蔵してゐる。尤も、コレクションを称する程のものではない。小田原界隈の海にひらけた山地には原住民の遺跡が多いのである。
 二の宮の魚市場には二間ぐらゐの鱶が一匹あがつてゐた。目的の魚屋へついたが、地の魚は、遂に、一匹もなかつた。日が悪いだ。こんな日に魚さがす奴もないだよ、と魚屋の親爺は耳のあたりをボリ/\掻いてゐたが、然し、鮪をとつておいてくれた。鮪一種類しかなかつたのである。
 魚屋の親爺は労務者のみに特配の焼酒をだして、みんな僕達に飲ませた。サイダーで割つて飲むと、焼酒も乙なものである。ガランドウから伝授を受けた飲み方のひとつだ。そのとき、丁度、四時半であつた。太陽が赤々と沈もうとし、魚屋の店頭は夕餉の買出しで、人
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