掘されてゐた。土と土の山の間に香煙がゆれ、数十人が捻鉢巻で祖先の墓に鍬をふるつてゐる。一丈近くも掘りさげて、やうやく骨に突き当つたゞよ、と汗を拭いてゐる一組もある。この近郷は最近まで土葬の習慣であつたから、新仏の発掘に困《こう》じ果てゝゐる人々もあつた。
 ガランドウは骨の発掘には見向きもしなかつた。掘返された土の山を手で分けながら、頻りに何か破片のやうなものを探し集めてゐる。こゝは土器のでる場所だで、昔から見当つけてゐたゞがよ、丁度、墓地の移転ときいたでな。ガランドウは僕を振仰いで言ふ。
「これは石器だ」
 土から出た三寸ぐらゐの細長い石を、ガランドウは足で蹴つた。やがて、破片を集めると、やゝ完全な土瓶様のものができた。壺とも違ふ。土瓶様の口がある。かなり複雑な縄文が刻まれてゐた。然し、目的の違ふ発掘の鍬で突きくづされてゐるから、こまかな破片となり、四方に散乱し、こくめいに探しても、とても完全な形にはならない。
 捻鉢巻の人達がみんなガランドウのまはりに集つて来た。
「俺が掘つたゞけんどよ。知らないだで、鍬で割りもしたしよ、投げちらかしたゞよ。方々に破片があるべい。無学は仕方がないだ
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