に入浴して、朝は卵を五ツも飲み、昼には蒲焼、鳥モツ、夕食には柳川、スキ焼、用意をとゝのえ、当日は休業、屋台の方は用意なしという打込み方であったが、日が暮れても訪れがない。さては子供を寝せつけてから、などと十時十二時まで待ったが、そのころはもうヤケ酒の大虎となって、エイ、畜生め、二号のもとへシケ込みということになる。
 八日、九日、十日になった。
 あのとき五千か一万ぐらい軽く持たせてやればよかった。断髪洋装インテリ淑女とくると、つきあい方が分らないから、姫君みたいに尊敬したのが失敗のもとで、すぐ結婚というわけじゃない、いわばまア二号なみと先方がその気なのだから、そこに気がつかなかったのは大失敗であった。
 幸吉は叔母さんを訪ねてみると、
「何言ってやんだい。二十三十の小僧じゃあるまいし、ハゲ頭のビヤ樽め。オクゲ様が乞食するというこの節に芸者遊びだなんて、きいた風なことをしやがって、惚れたハレタが、きいて呆れらア。オツケで顔でも洗って、出直してきやがれ」
 というのに鼻薬を握らせると、
「じゃア、まア、ちょッと、行ってみてくるから」
 と出て行ったが、しばらくして、戻ってくると、先ず目顔
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