にかい、オメカケの方がいゝというのかい」
「いゝえ、うちに子供もいるし、間借りだから、うちへ来て貰っちゃ、こまるわ。会社の名刺あげといたでしょう。四時ぐらいまでいるから、電話をかけてね。でも、一週間ぐらいのうちに、私の方から、お邪魔に上るわ。それまで、待ってちょうだい。分ったでしょう」
「なるほど、そうかい。それじゃあ、気永に待つことにしよう。一週間ぐらいのうちに、待ってるぜ。四時から五時半まではウチにいるし、そのあとだったら、屋台にいるから、屋台の場所は分ったね」
「えゝ、じゃア、またネ。四五日うち、二三日のうちに、お伺いするかも知れないわ」
 と云って別れた。
 二三日うち、四五日うち、待つ身のつらさ。お客用の猫モツの代りにマグロの刺身だの肉鍋などを用意して、屋台にいても、女の通る姿を見かけるたびにドキリときて、気が気じゃない。五十オヤジのホテイ腹に粋筋が秘めてあるとは知る由もないお客が、握ると落付かなくなるもんじゃねえか、などと薄気味悪くニヤリとするが、オヤジは当節お客が物騒なピストルぐらい勘定代りに払いかねないということなどは頓着しないノボセ方であった。
 とうとう七日目。入念
前へ 次へ
全30ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング