か。子供を二人かゝえて、事務員なんて、つらかろう。私のところじゃ、買いだしから、オデンの煮こみ、みんな私がやるんだから。私ゃ、ふとってビヤダルみたいだが、毎日自転車で十里ぐらい駈け廻って買ったものを売りさばいて、屋台の支度もして、仕事がすんで一パイのんで、梯子酒して、虎になって、それで、お前、手筈一つ狂わねえや。狂うのは虎の方ばっかり、然し、お前、どんなに大虎になったところで、翌日の仕事が、それで、これっぱかしも間に合わなかったということがないぜ。その代り、目がさめる、フツカヨイの痺れ頭にキューとひとつ注射しといて、ネジリハチマキで自転車をふむ、勢いあまってひっくらかえって向うズネすりむいたって二分と休みやしねえ。慾と仲よく道づれで働くから、この節は、それで疲れたということもねえや」
キヨ子はうつむいて、しばらく黙って歩いていたが、
「だってネ、夫が戦死して結婚するなんて、なんだか助平たらしくて、いやだわ。私、夫が出征してから、今まで。ねえ、だから、もう、ちょッと、ゆっくり、待とうよ。そんなに、いそいで、結婚なんて、言わなくっともいゝじゃないかと思うわ」
「そうかなア。それじゃア、な
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