れるのイヤだから、会社へ電話ちょうだい。オバサンに羞しいから、今夜のことも言っちゃイヤよ」
「言うまでもねえやな。それじゃア、待つ身はつらいから、約束の日をきめるのはやめにして、私は電話をかけるよ。一週間に一度ぐらいはいゝだろう」
「うん、でもネ、やっぱり主人に悪いと思うから、あんなこと、もう、したくないのよ」
「マアサ、拝むから、旦那の帰還まで、つきあっておくれ」
「えゝ、その代り、誰にも言っちゃ、いけなくってよ」
と別れた。
然し、それからの水曜日に電話をかけると、今日は忙しいから、という。次の水曜には出張でいないという。
すると速達がきて、水曜ごとに同じ男の人から電話がくるのは会社の人たちに邪推されて困るから、私の方から遊びに行くまで待っていてくれ、と書いてあった。
それから一ヶ月ほどして、戦死の主人を考えると悲しくなるから、主人の生死にかゝわらず、もう自分のことは忘れてくれ、一生、独身で子供の養育につくすから、という手紙がきた。
★
それから一月ほど待ったがキヨ子はこない。
幸吉も次第に冷静となって、又、仕事に精がでるようになった。
幸吉は
前へ
次へ
全30ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング