と、きらいよ。働いてると、時々、そんなことする人あるけど」
「だって、お前、私の場合は、もう他人じゃないんだから」
「だって、淫売みたいだから、いやだわ。お金に買われたみたい、いやだもの。私、ノンビリしていたいのよ。だから、もう、結婚なんて、考えたくないの」
「だって、見合いをしようという気持を起したじゃアないか」
「あれは気持の間違いですもの。それに公報はきたけれど、公報のあとに本人が復員することも屡々《しばしば》あるそうですもの。だから、夫を待ってるわ」
「それは済まなかったなア。それでも公報はきたことだから、一度、こうなっても、まんざら御主人に顔向けがならねえというワケでもないぜ。だから私も結婚は、あきらめるから、まア、然し、これは、納めて下さいよ。結婚は別として、時々は遊んでくれても、いいじゃないか。金で買うわけじゃアないんだぜ。当節はレッキとした官員さんでも暮し向きが楽じゃないそうだから、ましてお前、女手一つじゃ大変だアな。私の気持だけなんだから」
無理に女の帯の間へはさんでやると、キヨ子も無頓着にそれなりであるから、
「今晩はともかく一時間でいゝから、うちへ遊びにきておく
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