子をつかまえて頻りに活躍しているところへ私がニヤニヤ近づいて行くと、急に、あなたなんか知りません、とばかりソッポを向いて、私はマジメな銀行員です、ヒヤカシじゃありません、というようにやる。オバカサンだ。相手の女が雑誌記者じゃないか。私はちゃんと知っているのだ。
 私のところへ一服休憩にきて、
「あ、あの子は、ちょッと、シャンだ。あれをやろう」
「よせよ。あれもヒヤカシだよ」
「ウソですよ。素人娘ですよ」
 と走って行って、ワタリをつけている。三十分ほどして戻ってきたから、
「オイ、あの女は、横浜で焼けだされて、厚木の近所の農村へ疎開してると云ったろう」
「アレ、僕たちの話、立聞きしましたね」
「別の男とやってるのを聞いてたんだよ。いゝかい、あの女と、あの女と、あの女と、あの女、四人のちょッとした女はみんな一味だよ。あそこにいるオバサンを軍師にして、ヒヤカシに来ているのだ」
 見合いに忙しい御当人には分らないが、私のような見物人には、化けの皮が分るのである。
 要するに見合いに立ち騒いでいる大部分はニセモノばかりで、二千余人のホンモノはボンヤリ立ってニセモノの大活躍を見ているばかり、自分
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