の力で言い寄る勇気がない。恐らく主催者がなんとかしてくれるものだろうと思って出てきた人で、多くはわざわざ田舎から来た真剣な人たちのようであった。そして五六時間ボンヤリ河原に突っ立っていただけで、一言も誰と言葉を交わすでもなく、むなしく帰って行ったのだ。
 同じ村から一しょに出てきた二人の娘が、向い合って河原に尻もちついて、さっきから、もう二時間も懐中鏡で鼻の頭をてらしながら、同じところへパフばかりたゝいている。男の顔を見るはおろか、全然顔をあげることができないのだ。誰かゞ自分を見ていて、今に誰かゞ話しかけてくれるものと羞恥と不安でイッパイなのだ。然し、誰も見やしない。言いよる者のある筈のない醜い娘たちであった。
 集団見合も、このまゝでは、残酷すぎる。いたましすぎる。
 川にはボートがうかんでいる。パンパンのボートがスーと男のボートに近づいて交渉をはじめた。二つのボートはスーと陸へ並んで行った。そっちの方がてっとり早く見合いを完了したのである。バカバカしい。



底本:「坂口安吾全集 06」筑摩書房
   1998(平成10)年7月20日初版第1刷発行
底本の親本:「サロン 第三巻第
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