を見たり、左を駈けぬける自動車のあとを眺めてゐたが、警官は時々私を呼んで所持品を調べたり、どういふわけだか掌を調べた。
「あなたは手相もおやりですか」と私が余計なことを言つた。
「うつふつふつふ」
突然楽しくてたまらないやうに高木が笑ひだした。一見子供々々した全身に、どうにでも勝手にしろといふ図太さが、一際露骨に表れてゐた。私がひやりとしてゐるうちに、
「いつたいどういふことを証明したらあなたは釈放してくれるのですか」
子供はひとつ咳払ひをして落着払つてかう言ふ。愈々今夜は豚箱だと私が矢庭に観念しかけると、警官は案外にもその時あつさりと「お引とめして失礼しました」と言ひ、見事なほど別れ際よくサッサと振向いて行つてしまつた。
「君と一緒の時に限つてやられる。俺は一人でやられたことはないのだぜ」と私は癇癪を起して万事彼のせゐにしたが、
「冗談ぢやない。俺だつて一人でやられたことは絶対にないよ」と大いに抗弁した。
二人連立つたびに頻りに訊問を受けたのである。
高木は屡々《しばしば》自殺を計つて奇妙に幾度も失敗した。といふのは、彼は週期的に精神錯乱を起す不幸な先天的欠陥があつて、その
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