篠笹の陰の顔
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)従而《したがって》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)近頃|切支丹《キリシタン》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)けだもの[#「けだもの」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)わざ/\
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 神田のアテネ・フランセといふ所で仏蘭西語を習つてゐるとき、十年以上昔であるが、高木といふ語学の達者な男を知つた。
 同じ組に詩人の菱山修三がゐて、これは間もなく横浜税関の検閲係になつて仏蘭西語を日々の友にしてゐたが、同じ語学が達者なのでも高木は又別で、秀才達が文法をねぢふせたり、習慣の相違や単語を一々克明に退治して苦闘のあとをとどめてゐるのに、高木にはその障壁がなくて、子供が母国語を身につけるやうな自在さがあつた。
 高木と私は殊のほか仲良くなつて、哲学の先生に頼んで特別の講読をしてもらつたり、色々の本を一緒に読んだ。
 私は二十三四であつた。そのころは左翼運動の旺んな頃で、高木と私が歩いてゐると、頻りに訊問を受け
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