木ですよ。三十万ソノ子にとられたなんてウワゴト云ってやがったんですが、この野郎、何をぬかしやがるかと思っていたんですがね。まさかに、泥棒して貢いでいるとは気がつきませんでしたよ。あげくにソノ子と手に手をとって逐電しやがったんでしょう。バカな野郎でございます」
「吾吉はヤケクソでやったのさ。ソノ子と一緒ではあるまいな。あの子吾吉には鼻をひッかけないはずだよ」
「ヘエ、仰有《おっしゃ》いましたね。悟ったようなことを言いやがんない。このオタンコナスめ。けれども、和尚さん。私ゃ、どうしたら、いゝでしょうねえ」
「当人の行方が分らないのだから、ここで気をもんでも仕方がない。お前さんも女だてらにポンポン云うばッかりで思慮がないから、ロクな子供が育たない」
「へえ、悪うござんしたね。蛸坊主め、気どっていやがら。だけど、和尚さん、八卦《はっけ》かなんか立てゝ下さいな。あの野郎の襟クビふんづかまえて、蹴ッぽらかしてくれるから」
 漬物屋のオカミサンは、蹴ッぽらかすなどという異様な言葉で威勢のほどを示したが、警察へよびたてられる、新聞記者は押しかけるで、ムカッ腹を立てゝいたのである。
 ところがそれから十
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