日目ぐらいに、五十万円使い果した吾吉は、サガミ湖の山林でクビをくくって死んでいた。盗んだ金の多くはバクチで失ったようであった。
★
「和尚さん。すみませんけど、あの野郎、まだ成仏ができないようですから、お経をあげて引導わたしてやって下さいな。夜中になると、骨壺がカタコト鳴りやがって、うるさくッて仕様がないんですよ」
「気のせいだよ。お前さんも神経衰弱になったんだろう。オカミサンに限って、あの病気にかからないと思っていたが、世の中は一寸先がわからないものだ」
「バカにしちゃ、いけないよ。あんなバカ野郎が一束クビをくゝりやがったって、私が神経衰弱なんかになるもんかね。和尚さんがお経を切りすてるから、あの野郎が成仏できないのよ」
「ちかごろは物覚えがわるくなってな。お経などゝいうものは、切りすてるほど味のでるものだ。いずれヒマの折にお経をつぎたしてあげるから、ゆっくり亡魂と語り合うのがよろしかろう」
「ふざけやがんな。オタンコナスめ」
と、漬物屋のオカミサンは怒って帰って行ったが、一時間ほどすると、浮かない顔でやってきた。
「和尚さん。呆れかえって物が云えないやね。
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