行雲流水
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)倅《せがれ》
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「和尚さん。大変でございます」
 と云って飛びこんできたのは、お寺の向いの漬物屋のオカミサンであった。
「何が大変だ」
「ウチの吾吉の野郎が女に惚れやがったんですよ。その女というのが、お寺の裏のお尻をヒッパタかれたあのパンスケじゃありませんか。情けないことになりやがったもんですよ。私もね、吾吉の野郎のお尻をヒッパタいてくれようかと思いましたけどネ。マア、和尚さんにたのんで、あの野郎に説教していただこうと、こう思いましてネ」
「あの女なら、悪いことはなかろう。キリョウはいゝし、色ッぽいな。すこし頭が足りないようだが、その方が面白くて、アキがこないものだ」
「よして下さいよ。私ゃ、パンスケはキライですよ。いくらなんでも」
「クラシが立たなくては仕方がない。パンスケ、遊女と云って区別をすることはないものだ。吾吉にはそれぐらいで、ちょうど、よいな」
「ウチの宿六とおんなじようなことを言わないで下さいよ。男ッて、どうして、こうなんだろうね。女は身持ちがキレイでなくちゃアいけませんやね。ウチノ
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