してやって下さいな」
と町内の者に叩き起されて、和尚は線路へあがってみた。
死んでいるのは男だ。クビがキレイに切断されて、胴体はひかれた位置に、全然とりみだした跡がなく残っているのである。
クビだけ十間ほどコロコロころがったらしく、サラシ首のように、枕木の上にチャンと立っているのである。大きな目の玉をむいている。おまけに、自分をひいた汽車を見送ったように、行く先の方をマッスグ睨んでいるのであった。ちッとも取り乱したところがない。
「行儀がいゝねえ。このマグロは、自分をひいてくれた汽車に、御苦労様てんで、挨拶しようてえ心意気なんだな。ユイショある血筋の若ザムライかも知れないよ」
「ハテナ」
和尚はクビを見つめた。
「アッ。あの男だ」
押入れの中に隠れていた男なのである。さては、とうとう、やりやがったか。死ぬ奴は吾吉一人じゃないわよ、と言いやがったが、お尻の復讐の二人目が成就したのである。
「オーイ。こんなところに、女のマゲがスッ飛んできていやがるよ。このマゲは桃割れだ。頭のツケ根からスッポリ抜けてきたんだね」
一人が離れたところで、こう叫ぶ声がきこえた。
「そういえば、ここん
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