ボクたちの愛情よりも、桃割れの方が大切みたいじゃないか」
男はソノ子に恨みを云った。
「そんなこと言うのは、アナタに愛情がないせいよ。もう、ほかのことは忘れて、死ぬことばかり考えましょうよ」
「そうか。そうだ。キミはきっと聖処女なんだ」
男は後悔し、感激して、又、泣き沈んだ。そして二人は、夜の明け方、まだまッくらな中を冷い朝風をあびて、すぐお寺の横を走っている鉄道線路へ並んでねた。
「胴体が真ッ二つじゃ汚らしくッてイヤだから」
と、かねて相談の通り、胴体から足は土堤の方へ、クビだけを線路の上へのせたのである。
ソノ子が怖くなったのは、その時からであった。
「さむい。だいて」
ソノ子は男に接吻した。そして、立っている男と女が接吻する時のように、巧みに顔をひいて、男には悟らせずにクビの位置をひッこめた。そして男の顔へ、上から唇を押しあてた。
一番列車がやってきたのは、その時だ。ソノ子は唇をはなして、自分も線路を枕にするフリをして身を倒したが、彼女の頭は線路をハミでゝ、たゞ桃割れが乗ッかっていたゞけであった。
★
「裏の線路に自殺があったから、ひとつ、回向
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