なに気が弱くなったことはなかった。まだ、十八の小娘なのである。そのときまで毛頭思いもよらなかった死というものに、にわかに引きこまれるような気持になった。彼女は急に男が可哀そうで、いとしくなったのである。
 たぶん吾吉の境遇との暗合のせいであろう。十八という年齢が、それをうけとめるだけスレていなかったのである。ソノ子はむしろ自分から飛びこむような激しい思いになった。
「私だってパンスケなんかして、生きていたくないわ。だけど、パンスケ以外に、生きる道がないわね。アナタが死ぬなら、私も死ぬわ」
 男はポロポロなきだした。ほかに表現がなかったのである。それほど思いつめていたのであった。
 ソノ子も心がきまると、死に旅立つことが却って希望にみちているような張りがわき起った。彼女は男を残して、髪結屋へ行き、桃割れに結ってもらった。いっぺん、桃割れに結ってみたいと夢にまで見て、果したことがなかったからである。
 たくさん御馳走をこしらえて、弟や妹も一緒に最後の食事をたのしんだ。ソノ子は髪がくずれることを怖れたので、男の最後の要求も拒絶して、枕に頭をつけず、夜更けまで坐り通していた。
「まるで、ボクや
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