キミはボクを愛してくれているんだろう」
 と、男は心配して、きいた。
「吾吉とアナタじゃ違うわ。アナタは好きよ」
「そうか」
 男は考えこんだ。
「しかし、みんな打ちあけると、キミはボクがキライになるんじゃないのかな」
「そんなことないわ。私、男の人が好きになったのはアナタがはじめてだわ。だから、すてないでね」
 男は又、考えこんだ。
「じゃア、思いきって、言ってやれ。もう、思いきって、言ってしまうほかに手がなくなったんだ。ボクは今日にも自殺するほかには手がなくなったんだ」
「アラ、そんなこと、ある筈ないじゃないの」
「キミには、わからないことさ。ボクは吾吉氏と同じ境遇なんだよ。わかったかい。出張なんて、デタラメさ。会社の金を使いこんで逃げ廻っていたんだよ。盗んだ金も、なくなったんだ。ボクは強盗して生きのびるほどの度胸はないから、死ぬよりほかに仕方がない。旅先でも、死場所を探していたのだが、ズルズル東京へ戻ってきてしまったのさ。ただキミが一緒に死んでくれるかどうか、それが不安で、今まで生きてきたゞけだよ」
「私だって、アナタが死んでしまえば、生きているハリアイがないわ」
 ソノ子はこん
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