ている。これにのると、暗黒街とかエロショオとか泥棒心中の現場のたぐいに運ばれて、ちょッと人の見物できかねるものをユックリ見せてもらって、又、スルスルと自動車で今度は酒場へ。これだ。こんなウマイ手があるのである。それが巷談屋開業の重大決意(この言葉はこんな風に用いる)をかためるに至ったナイショ話というわけだ。おまけに全部官費で、どこまで間が良いか分らない。
 巷談屋を開業する。開店そうそう大評判、ソレというので、大小新聞、あらゆる綜合雑誌(キングを含む)みんなオレのところへ巷談よこせ、といって押しかける。そうは参らん。そんなに見たり書いたりできない。一ヶ月は三十日、巷談屋の身は一つ、仕方がない。盛大な創業ぶりであった。
 共産党文学青年の総反撃は巷談初の受難であるが、もとより私は驚かない。こんなにウマイ汁を吸うからには、暗黒街でピストルのそれダマをくらったり、エロショオでは警官に追いまくられたり、多少の受難は諦めてかかっている。巷談屋の心構えというようなものは、ちゃんと身にそなわっているのである。
 しかし、共産党は、言葉も知らないし、言葉の用い方も知らない。
「まだ生きていたか!」
 
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