じまった。
 その先月は松谷天光光女史の事件について憎まれ口をたたいたが、労農党や民主党は法律を重んずること厚く、言論の自由にインネンをつけることをしなかった。
 もっとも、筆者のところへは来なかったが、雑誌社へインネンをつけてきた形跡はある。これは私の推理で、確証があるわけではない。文藝春秋新社は意外にも紳士淑女のたむろするところで、礼節の念は嫩《ふたば》より香《かんば》しく、かりそめにも筆者に激動を与えるような饒舌をもらさない。しかし私は抜群の心眼をうけて生れ、その推理眼は折紙づきであるから、こうと睨んで狂ったことはない。微妙な証拠は多々あげることができるけれども、他人の機密にふれるから黙っておくことにする。
 しかし、私には言論自由のルールがハッキリのみこめないが、筆者には自由であり、雑誌社に自由でないというワケが、甚しく分らない。書いた責任は全部筆者にあって、もしもこれを雑誌社が載せないとなると、原稿料は先にふんだくられているし、筆者には怒られるし(彼の図体は大きい)よいところがない。かの巷談師は、かの雑誌社が、長すぎた原稿を二枚けずったカドによって絶交状をたたきつけた前歴もあ
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