いっぱいというわけだ。なにも私を選んできかせる必要はないように見える。第一、私にきかせるためには、方々へ問い合して、住所をさがさなければならない。ところが彼らは、その苦労を物ともせず、私に手紙をくれるのである。
 私の必勝法と彼らのそれとは距りがあり(彼らはみんなベテランだ)その距りは絶対で、知己を感じるイワレはないように見える。しかし、彼らから見ると知己を感じるのかも知れない。
 負けて手紙をよこしたというのは、ない。賭事をやる人間は、負けた時は黙々として健忘症となり、勝った時の記憶だけは死ぬまで忘れることができないという語部《かたりべ》の精神に富んでいるらしい。つまり語部の代表たる巷談屋に彼らのユーカラを吹きこんでおこうという楽しい精神状態なのかも知れない。
 苦情がでたのは「東京ジャングル」だ。まにうけて上野探訪にでかけたら、唖の女の子にはめぐり合わないし、お客を大切にして、ジャングルの平和をまもる情に溢れているどころか、一しょに泊った女の子に財布を持ち逃げされたよ、こまるじゃないか、アッハッハヽというようなわけだ。
 さすがに上野探訪の風流心を起すほどの貴人であるから、怨みをの
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