談! まア、のもう」
私にビールをつがせてグッと呷り、再び握手を交した。
「あれはいいぞ。安吾巷談。な。よく見ている。初心者の甘さもあるが、よく見ている。みんな、ほめてるぞ。あれで行けよ」
と、ほめて、はげましてくれた。損をした日は、ほめてくれないように見えたが、私のヒガミかも知れない。
共産党とちがって、競輪の手紙は、二三の妖気ただよう例外をのぞいて、概して景気よく明るい。
しかし、手紙をよんでみると、私に手紙をくれたイワレがわからないのである。なぜなら、安吾巷談にはチョッピリふれているだけで、それも書簡の義理として、ちょッとふれておくという投げやりな様子が露骨だからである。彼らは私の巷談に説く必勝法には同感していないのである。さりとて反駁するわけでもなく、又、皮肉るような悪意はミジンもない。つまり彼らは私を親友として扱ってくれているのである。
なぜ私に手紙をくれるかというと、もうけた話をきかせるためである。もうけたレースの競輪新聞を十枚ぐらい同封し、どこを狙って中穴をしとめたか、人の気付かぬ急所をついた手柄話を楽しそうに書いている。それだけなのだ。それをきかせたい楽しさで
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