べても、悪意はないし、アッサリしている。
 私が書いている時はあんまり意識しなかったが、風流才子の面々は、言い合わしたように唖の娘をさがしに行っているのである。そして、十二人もいるなぞとあるが、嘘だろう、と巷談屋の写実に疑いをいだいているのである。
 風流の貴人たちよ。疑いは人間にあり。巷談屋は多少インチキであるかも知れぬが、こういう急所で貴人をたぶらかすような無法をしたことはない。
 しかし、争われないもので、私はあんまり意識せずに書いたけれども、上野探訪で一番心をひかれたものはといえば、唖の娘であったのだ。お巡りさんが武装いかめしく護衛についてくれているのに口説くわけにもいかない。実に残念千万であると……いけない。そんなわけで、ちょッとしたあの挿話に私の魂がこもったらしい。貴人はそれを見破るのである。しかし、これを顧て、私も一かどの貴人であろう。
 先日、碁会所の相手に、
「御商売は?」
「巷談師です」
「ハ。講釈のお方?」
「イエ、巷談師」
「アッ。コーダンシ。これはお珍しい。ウーム、なるほど」
 と顔を見て感心していた。なんとカンチガイしたのか見当がつかないので、話の泉の補充兵
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