かに、岐阜、鳴尾、住之江などゝいうのがある。紙面の各々には判読に苦しむ細かさでベッタリ朱筆がいれてあった。
「君、競輪、商売にしてる人かい?」
ときくと、つまらなそうに、うつむいて、
「まアね。そう言われても、仕方がない。ヤクザじゃないがね。予想屋でもやろうかと思ってはいるが、脚がこれでね」
フトンをのけて見せた。片脚が義足なのである。
「ぼくは罪なことのできない性分だから、予想屋じゃ客がつかないだろうよ。ぼくは、こう言うな。穴をねらッちゃいかん。レースを全部買うな。分らん時は、おりることよ」
「戦争で負傷したのかい?」
と、私はきいた。
男は首を横にふって、
「工場でよ。どうやら、ぼくの不注意からなのさ」
彼はニッと笑った。宿命に安んじているのかも知れない。
私は彼を見直した。工場でうけた傷でも、こんな時には、戦傷にするのが人情だ。見知らぬ私をひきいれて、駄ボラを吹いている最中だからである。してみると、この男の話は駄ボラじゃないのかも知れない。
彼は疲れたのかドッコイショとねころんで枕をつけて、
「今夜、出直しておいで。それが、いいよ。出走表を見て、教えてあげるよ。確実
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