る。これが共産党の先祖で怖しい呪いをかける。末路を予言するのである。口の中でブツブツ言うのだが、赤頭巾を食う狼よりも兇悪不逞で、人間の敵だ。腰のまがった妖婆とちがって、威勢のよい共産党はもッとハッキリきこえよがしに呪いをかける。近代的だか軍人的だか知らないが、人間の敵には変りがない。森の妖婆の中にも「善い妖婆」がまれにはいる。シンデレラ姫についた妖婆がそれである。私にはそんな共産党はついてくれない。そして私はどうしても人民の名によって吊しあげられることになるのである。
 しかし巷談師はこんな不景気な手紙ばかりもらうわけではない。

          ★

「もし、もし。ちょッと、ちょッとオ。待ってえ! 坂口さん」
 巷談師のうしろから大声で叫びながら、自転車で追ってきた女の子がいる。この温泉町はパンパンが大通りへ進出して客をひッぱるので有名だが、自転車で追っかけた話はまだきいたことがない。
 見たところパンパンと見分けがつかなくて、同じぐらいの年恰好だ。
「コーダンの坂口さん? そうでしょう」
「……」
「そうでしょう? そう言ったわ。坂口さんね?」
「そう」
「じゃア、いッしょに、
前へ 次へ
全24ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング