二人だけ別室へよんで訊いてみると、二人は知合つて二週間ぐらゐにしかならないのである。ある晩、娘がスケート場で遊んで遅くなり、帰ると叱られるので途方にくれてゐると、かねて知合ひの三人の中学生に出会つた。そして中学生の下宿へさそはれ、三名から暴行を受けた。翌朝、半狂乱の状態になつてゐる所へ、偶然この男がやつて来たのである。この男は三人の中学生の親分であつた。男は娘を自分の宿へ連れて帰つて介抱し、力づけてやるために努力した。五日間そこに泊つてゐたけれども、男は娘を肉慾の対象にはしなかつた。娘は身体も恢復し永遠にこゝにゐたいと思ふやうになつてゐた。買物に出掛けた所をつかまへられて家へ連れ戻され僕が訊問したわけだつたが、そのとき娘の恋心が決定的なものになつた。翌日の暮方、家人の隙を見て、一包の着物をもちだし、今度は男の所へ押しかけて行つたのである。
この顛末は僕だけしか知つてゐない。棟梁の一族にあらゆる悪人呼ばゝりをされたが、この男は一言の申訳もせず、父母に向つてたゞ丁寧に詫びたゞけであつた。この男は数年間歯を磨いたことがないのであらうか、口臭が堪へがたかつたが、それ以外には不愉快な印象はな
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