孤独閑談
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)荒《すさ》ぶ
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)年中|駻馬《かんば》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ブツ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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食堂の二階には僕の外にノンビリさんと称ばれる失業中の洋服職人が泊つてをり、心臓と脚気が悪くて年中額に脂汗を浮かべ、下宿料の催促を受けて「自殺したうなつた」かう呟きながら階段を降りたり上つたりしてゐたが、食堂の娘の家出に就て、女学校の四年生に弁当の配達をさせるのがいけないのだ、と非常にアッサリ断定した。路で友達に逢うたら羞しうて気持の荒《すさ》ぶ年頃やさかい、かう言ふ。女学校へあげるくらゐなら竈の前でこき使ふのは構はないが、弁当箱をぶらさげて配達に使ふのは甚だ宜しくない。だから不良少女になつたのである、といふ意見であつた。成程、人各々自分の生活から掴みだした一家の考察があるものだ、と僕は感心した。
娘は十七であつた。不良少女と言つても、大それたことの出来る年頃ではない。生意気ざかりで、ち
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