ふこともできなかつた。三宅君は新年早々入営することになつてをり、その晩は、立命館の先生福本君、山本君、四人集り、三宅君の壮行を祝して越年の酒宴をひらく筈であつた。僕達は京都の端で訊問を片づけると、疲労困憊、予定の時間を大分遅れて、やうやく会場に辿りついた。京都では大晦日の深夜から元旦の早朝へかけて、八坂神社の神火を三尺ぐらゐの縄にうつし、消えないやうに調子をつけて振りながら之をブラ下げて家に帰り元旦の竈の火をつけるといふ習慣がある。僕達が酔つ払つて外へでると、道の両側の人道はすでに縄の火をブラ下げた人達が蜿蜒と流れつゞいてゐる。家すらもないといふこと、曾《かつ》てそのことに悲しみを覚えた記憶のない僕だつたのに、なぜか痛烈に家がないといふことを感じたのだつた。おい、ギャングに会はふよ。ギャングのゐる酒場へ行かうよ。福本君が怒鳴る。よからう。ギャングに会はふ。僕達は蜿蜒たる縄の火の波を尻目にどこか酒場のたてこんだ路地に曲りこみ、ギャングはゐないか、ギャング出てこい。まつたく、だらしのない元旦だつた。この日から、もう、捜索は金輪際やめてしまつた。
娘をつかまへてくれたのは大工の棟梁の一族だ
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