姐御は僕達の目をヂッと見てゐたが、自分の知つてゐる限りでは、娘のつき合つてゐた男のうちに、さういふ事態になりうる男が二人ゐるから、と言つて住所と姓名を書いてくれた。京都の端と端であつた。一人は予科生、一人は中学生だつた。僕達の話の途中、姐御の馴染客が二組も来て頻りに合図するのであつたが、姐御は平然として黙殺し、不良少女や少年の内幕に就て様々な細い注意を与へてくれる。さうして、別れる時には、ほんまにお母さんは御心配のことゞすやらうなア、暇やつたらウチも行つてあげたいのやけれど。――勘定もチップも受取らなかつた。頼もしい女だと思つてゐたら、後日娘がこの話をきいて、あの人、狸やわ、冷然とさう言つた。
 教へられた不良少年を京都の端へ訪ねて行つたが徒労であつた。その日はまさに一年の大晦日に当つてゐた。街々は暮の飾りで充満し、さういふ飾りの物陰で、呼出した不良少年を威したり賺《すか》したり、死にたくなるやうなものである。一人だけでウンザリして、もう止さう、僕が言ふと、三宅君も実に簡単に賛成した。不良少女の方だつたら出掛けて行つてもいゝのだが、などゝ笑つてみるが、益々異様にガッカリするばかりで、笑
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