て見廻りに来て、大方出来上る頃と思ひのほか、十分の一とつまりはしない。カン/\に自分の親爺を怒鳴りつけ、それからは、毎晩のやうに見廻りにくる。親爺は弁当の配達もできぬ。店の仕事は主婦に委せて、朝から夜中まで箱づめにかゝり、ふるへる手に手当り次第八ツ橋を毀し、無理に箱にねぢこんでゐる。かういふ破目になつてみれば、主婦も亦、仕方がない。さう/\油も売つてゐられず、箱づめの助勢にかゝり、恨み骨髄に徹して、二階へ駈け上り、ほんまに慾のない人達やないかいな。お公卿さんの生れの方はうちらと違ふてゐやはるわ。まあ、きいとくれやす、と、常連の誰彼に軍鷄の声で説明してゐる。然し、もと/\、無理な仕事を押つけられた親爺に落度があつたのだ。親爺以外の何人が、こんな仕事を引受けよう。然しながら、子の愛にひかされ、子供のために嬉々として慾得もない親爺の弱身につけこんで、引受けてのない労働を押しつけるとは、狡猾無類の倅であつた。然し、親爺は、子の愛からか、意地からか、引受け手のない無理な仕事をまんまと倅に押しつけられたといふことを、金輪際信じようとはしなかつた。さうして、好きな碁もやらず、青筋をたてゝ、うゝ、うゝ
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