古都
坂口安吾

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)鵜殿《うどの》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大概|肯綮《こうけい》に当つてをり

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#丸十、322−19]食堂

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)まる/\と
−−

       一

 京都に住もうと思つたのは、京都といふ町に特に意味があるためではなかつた。東京にゐることが、たゞ、やりきれなくなつたのだ。住みなれた下宿の一室にゐることも厭で、鵜殿《うどの》新一の家へ書きかけの小説を持込み、そこで仕事をつゞけたりしてゐた。京都へ行かうと思つたのは、鵜殿の家で、ふと手を休めて、物思ひに耽つた時であつた。
「いつ行く?」
「すぐ、これから」
 鵜殿はトランクを探しだした。小さなトランクではあつたが、千枚ばかりの原稿用紙だけが荷物で、大きすぎるくらゐであつた。いらない、と言つたが、金に困つた時、これを売つてもいく
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