勝手に手紙で打合して、布団と一緒に、荷物のやうに送り出されて来たのであつた。のみならず、主婦ともあらう女が、どうして、この事態を予想したであらうか。言ふまでもなく、儲かることを打算してゐたに相違ない。姉とか、父母といふ関係ですら、打算を外に考へることはない筈だつた。してみると、彼女の姉が、更に一枚、上手《うわて》の役者であつたのだらう。気の毒なのはノンビリさんで、食事のたびに口前の催促され、お櫃の蓋をあけるたびに、主婦が血の気の失せた横目の顔で睨んでゐる。わしア、もう、自殺したうなつた。と、彼はさういふ風に呟くのだつた。
 この時、関さんは親切だつた。彼は翌日、ノンビリさんをうながして、主人の所へあやまりに行つた。その翌日には、彼が一人で、出掛けて行つた。それでも駄目だと知ると、又、翌日には、リヤカーにノンビリさんの荷物を積んで帰つてきた。クヨ/\せんかて、よろし。ようがす。必ず、いゝ口見つけてあげますさかい。関さんは勇気をつけた。さうして事実、十日に一度ぐらゐづゝ、いや、一ヶ月に一度ぐらゐかも知れないが、ノンビリさんの口を探しに行つたのである。無論、むだ足にすぎなかつた。関さんは果し
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