ん等と言訳してゐるのであつたが、大体、金の有る筈のない関さんを自分の方から誘ひだして喫茶店で一杯のコーヒーをのみながら、必ず関さんに払はせてくる男であつた。
僕が散歩にでると、黙つて後からついてくる。三四丁も行つたころ、先生、と始めて呼びかけて肩を並べ、それからは金輪際離れない。稲荷の山から東福寺へぬけ三十三間堂を通り宮川町から四条通り新京極へ現れてもまだ、離れない。こゝで僕は失敬するよ、と言つても、でも、先生、邪魔しいへんさかい、と言つて、僕が呑み屋へ這入れば自分も這入つてくるのであつた。自分は何も注文せず、僕の隣に坐つてゐる。仕方がないから何かあつらへてやると、先生、ほつといとくれやす、うち、欲しうないよつてに、と厭々ながら恩にきせて食べるのだつた。
先生、おきゝしたいことがおますのやけど、と、有るのやら無いのやら分らぬやうな細い眼をチラ/\させて、なア、先生、女の子の手え握る瞬間とらえるには、どないコツがおますやろか。手え握りたうて仕方ないのやけど、うち、臆病やさかい、心臓がドキンドキンいふばかりで、どむならん。……かういふことを言ひだすのだ。事おとなしく言葉で説いてどうなる
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