た。これは至極の名案であつたが、後には、自縄自縛、自らを墓穴へうづめる大悪計ともなつたのである。
 親爺にすゝめて、碁会所を開かせることにしたのであつた。幸ひ食堂の二階広間があいたまゝになつてをり、こゝは僕の二階と別棟だから、大勢の客が来てもうるさくない。碁会所には必ず初心者も現れるから、その相手には親爺があつらへ向きである。次に関さんを碁会所の番人にする。碁席は同時に関さんの寝室ともなり、給金はないけれども、食事を給する。関さんはその奥さんが林長二郎の家政婦で、乏しい月給をさいて衣食住を仕給されてゐるのだから、丁度よい。次には、僕で、十秒ばかり歩くだけで、好きな時に、適時に碁を打つことができる。三方目出度し/\である。
 碁会所は警察の許可もいらなかつた。関さんの勇み立つこと。僕も乗気で、下手な字で看板を書いてやらうと思つたら、日頃は大ケチの親爺まで、無理に僕の手を押しとゞめ、看板屋へ自ら頼みにでかけるといふ打込み方であつた。この看板屋が又、絵心があるといふのか、袋小路のどん底の傾いて化け物の現れさうな碁席であつたが、白塗りに赤字でぬき、華車《きゃしゃ》な書体で、美術倶楽部と間違へさ
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