、通風がよかつた。それに、少し離れたところに同じ庵がもう一軒あつて、この二つの庵が松林の中に孤立してゐるのだが、隣の庵は空家でもないのに年中硝子窓を明け放してゐた。肺病患者の一家であつた。だから僕は雨戸のない庵だと思つて、硝子窓を明け放したまゝ、東京へ遊びに行つて、一週間ぐらゐ留守にするのは毎度のことであつたが、盗まれる物がないから、泥棒の心配などしたことはなかつたのだ。
ところが或る日隣家が引越すことになつて、荷物を大八車につみ、庵の掃除をしたあげく、最後に窓から手を出して何物か探す風をしてゐるので、変な奴だと思つて見てゐると、どこからか雨戸をガタ/\引つぱりだして、みんな窓を封じてしまつた。この時は呆然とした。隣の奴は魔法使かと疑つたぐらゐであつた。隣の一家が姿を消すのを見すまして、すばやく立上つて隣の庵と同じ場所を探してみると、窓は庵の四方にあつたが、どの窓にも過不足なく雨戸といふものが有つたのである。急に富豪になつたやうな、出世した気持になつた。そこで、その次に東京へ行くとき、みんな雨戸を締めたあげく、二十五銭の南京錠を買つてきて勝手口を封じ、悠々出発に及んだ。一ヶ月留守にし
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