て帰つてきたら、泥棒が住んでゐたといふ次第なのである。雨戸などは締めるものではない。成金の心を懐いたから忽ち天罰を蒙つた。
かういふわけで、泥棒は僕の庵でもかまはずに這入つてくるから天下のことは油断ができぬ。いつ、どこで秋水をつきつけられるか分らないから、剣術の一手ぐらゐは胸にたゝんでおかねばならぬ。不覚をとつた後ではもう遅い。僕は中学時代の不勉強を呪つたが、今更武徳殿へ通ふわけにも行かないので、色々工夫して三手だけ発明した。
第一。無手勝流
夜中にふと目をさまし、有金を出せと言つて秋水をつきつけられた場合。おもむろに起上つて、先づ電燈をつけ、さて敵の秋水の刃先が辛うじてとゞく間をとつて睨み合ふ。敵ジリ/\と間をつめ今や斬りかゝらんとするとき、敵の足もとへ頭を先に滑込む。敵つまづく。我すばやく起上つて敵の頭をゴツン。
第二。二刀流
我たま/\ステッキの如き棒を所持する場合。右手に棒を持ち、左手には小石でもインキ瓶でも茶碗でも有り合せの品物を一つだけ持つ。敵の秋水が辛うじてとゞく間をとり、右手の棒も左手の品物もダラリとブラ下げて自然の体をくづしてはならぬ。敵斬りかゝらんとする気
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