剣術の極意を語る
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)竹刀《しない》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)残身[#「残身」に傍点]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ポカ/\
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 僕は剣術を全然知らない。生れて以来、竹刀《しない》を手に持つたことがたつた一度しかないのである。
 中学の時、剣術と柔道とゞちらか選んで習ふ必要があつたが、僕は柔道を選んだ。人にポカ/\頭を殴られるのは気がすゝまなかつたのだ。ところが後になつて、学校の規則が変つて、剣道も柔道もどつちも正科になつて一時間づゝ習ふことになつた。その第一時間目、型をちよつと教へたあとで、いきなり一同に試合させられた。僕の相手になるのは剣道部員で、おとなしい生徒だけれども、剣道の巧みな男であつた。ムザ/\殴られて手も足も出ないといふのは、どうしても残念千万であつた。僕の出場までには時間があつたので対策を考へた。
 僕は上段にふりかぶつた。ゆつくり落付いて面! と叫んで竹刀をふり下すと、僕の考へてゐた通り、敵は剣術使ひの卵だか
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