きて楽書を取上げた。お前は私の時間は出席しなくてもいゝ、と言つた。仕方がないから、ハイと言つて家へ帰つた。その学年中、用器画の時間は欠席した。出なくてもいゝと言はれたのだからこつちのせゐではない。もう落第だと思つて答案も白紙をだし、覚悟をきめた。二学期、丁をもらつた。三学期にも白紙の答案を出して落第して、叱られたら、家出して、満洲へ行かうかと思ひ、白系ロシヤの美人と恋を語ることなどを考へたりしてゐたが、やるせなくて面白くなかつた。ところが不思議に及第して、おまけに用器画の三学期間の平均点が乙になつてゐた。二学期丁だつたのだから三学期には百二十点ぐらゐとらないと乙にはならぬ。わけの分らない先生だと思つたが、先生に済まないと思つた。用器画の先生に会ふのが辛くて、転校したかつたが、僕を入れてくれる中学はもう東京にはないので、あきらめて新学期に出てみたら、先生の方が学校をやめてゐた。
この出来事があつたので、同級生が急にビックリして、九州くづれのオヂサン達(まつたくオヂサンであつた)がみんな僕を大事にしてくれて、それからの二年間は平和で幸福であつた。ヨタモノの中学だから、いつも喧嘩があつたが
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