しい幾つかの太陽があつた、僕の両肩に耳朶とスレスレの軌道を縫ふて忙しく明滅し、取り留めのない毎日が、同じ処に幾日を重ねて来たか、今日と昨日の識別《みさかい》も最早《もはや》着かない混乱が続いた。僕は時々上を見上げて、深くヂッと考へてみる。すると僕の考へが、急に僕の額から煙のやうに逃げ出してゆく、僕は空洞《カラッポ》の額のなかに、憔悴した僕の頬を、そればかり目瞼一杯に映してしまふ。
それでゐて、僕の毎日は不思議に鋭く緊張してゐた。誰人の意志が又|何故《なにゆえ》にこの不思議な緊張を斯くまで僕に強ふるのか、それを僕は知ることが出来なかつた。知り得ることは、僕の意志では斯の緊張をどうすることも出来はしないといふ事ばかり、僕はただ、日毎に強く張り切つて行く、不思議に休む時もない震幅を感じ続けてばかりゐた。やがて或日、其の緊張に極点が来て止む無く緊張それ自身を破裂せしめる時がある、その時僕はどう成つて何処へ行くのか、それも僕には分らない。僕は毎日怒つたやうな、妙に切迫した怖い顔を結んで、極く稀に、ふとした機勢《はずみ》でしか笑ひ出すことが出来なかつた。誰の物とも思へない不思議に低い笑声が、僕の
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