れからの永い夜、僕はお前の寝姿にさへ心付かずに、うつらうつらと物を思ふ、ときどき太く逞しく息を吸ひつつ……。ふとした夜の気配がして、僕は程経てお前の寝顔を発見する、僕は暫く呆然として、不思議に白々と広く虚しい部屋の隅々を見廻しはじめ、やうやく僕の存在と場所と時間に気付き乍ら今しがたお前の探しあぐねてゐた「いろんな事」を思ひ出す、何か不思議な拡がりを持つ胸の痛みと全く一緒に……。
斯《こ》んな気まぐれな、だらけ切つた生活が、たとへば永劫に続くとしても、悔む心の萌すときは僕にあるまいと考へてゐた、僕の涯無い無気力は、すべて現実に順応することをのみ生き甲斐として、悩みを悩みとも思ふ時はあるまいとその頃僕は考へてゐた。だが、僕達の知らない場所に僕達の心があつて、その日頃ひそやかに成育を遂げ、もはや隠し切れないその決意を或日僕達に顕はした時、僕達は始めて実に驚愕した。――その話を僕は静かに物語りたい……
[#7字下げ]2[#「2」は中見出し]
同じ悪夢が、夜毎《よごと》、氾濫した溝《どぶ》のやうに枕の下を流れて通る。酷い日は白つぽいドロドロの夜を、同じ悪夢で二度に三度に区切られてしまふ。
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