まふ。
 破裂とは如何なる結果を意味するか、それが僕には分らない、生きるか死ぬか知らないが、僕の全ての「生命力」を打ち込んで何か一つをやらかしさう、そんな気持がしてならない。その結果、結局僕は死ぬのかも知れない、しかし僕は死にたくない、何故《なぜ》でも僕は生きてゐたい、僕はただ破裂してしまふだけ、それだけは厭でも僕に仕方がなかつた。破裂の結果が死であるなら、それはそれで止むを得ない、みじめな事ではあるけれども、それに怯えない心はあつた。その意味では、今僕は「死も怖れない」と言ふことが出来やう、そして其の意味で言へば、僕は今、僕の切札を変へてもよかつた、「僕は死にたくない、それでも僕は、死も怖くない……」
 昔は僕は、午後の日和に、見送りの人波に紛れてコソコソと船に乗り込んだ、僕は豪奢な社交に酔つて、部屋の片隅に佇んだり、ある時高い人気ない場所に、遠く海へ撒かれてゆく僕の潤んだ哀愁を眺めたりした。僕は今、豪然として船に乗り込む、サロンの丁度中程の、僕は豪華な肱掛椅子に腰を埋めて、部屋の主人であるやうな傲慢無礼な様をしながら、銅羅の鳴るまで身動《みじろぎ》もしない。一人の旅人を取り囲んだ見
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