ャも買った。好き嫌いよりも、面倒を省くのが目的であったが、結局カボチャは一度も食べなかった。嫌いな物は、食いたくならないのは、当り前だ。
 とうとう、ここで十貫目ぐらいの荷物ができてしまった。雨は益々物凄く、この山中に四百ミりだか五百ミリだかの大雨が降った当日で、この雨と荷物のおかげで、死に損いもしたし、危く命が助かりもした。
 日陰和田まで歩く。谷川がある。そこに狸を祭った祠があって、そこから山の中へ谷に沿うて曲りこむのである。私は里の人に狸のホコラ、狸のホコラ、と聞きながら歩きすすんでいたから、怪しい顔でジロジロと見られ、とうとう巡査がドシャ降りをついて自転車で追っかけてきた。私から事の次第をきいて納得し、狸のホコラまで案内してくれたが、彼は自転車をひっぱりながら急ぎ足で突き進むから、重い荷を背負った私は、彼に足を合せるために疲れきってしまった。すでに狸のホコラまでで精根つきた感があった。
 ここから、いよいよ山中にはいる。谷に沿うて行くと丸木橋が渡してある。それを渡って登ると、彼の山小屋へ辿りつける筈なのだが、このドシャ降りで丸木橋が流失したということを、気付くのがおそすぎた。

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