丸木橋のかかっていた径の跡を発見することができるだろう、と判断がついたのである。そして、勇をふるッて岩と岩の中から身を起し、ついに、とっぷり暮れようとする寸前に山小屋へ辿りつくことができたのである。翌朝、目を覚すと、私の全身はいたるところ大きなコブをつけたように腫れあがり、殆ど身動きもできなかった。砂糖や塩や味噌は原形を失い、ドロドロになっていたが、それらが私の一命を助けてくれたものとして、なんとも有難く、いじらしく見えた。一日二日は身動きできず、そのドロドロをなめながら、ケダモノの穴ゴモリのような気持で一陽来復を待っていたのであった。
 私は、しかし、この小屋に長くはとどまらなかった。ちょうど、この豪雨で、小屋のうしろの崖がくずれて、小屋に異常はなかったが、便所だけつぶれてしまった。その異変のためにネグラを失ったのかも知れないが、毎晩一匹の蛇が小屋の梁に巻きついているのである。日中はいなくなるが、夕方になると、巻きついている。よく見ると、どうもマムシらしい。夜中にマムシに襲撃されては困るから、蚊帳をつり、蚊帳の裾を百冊ぐらいの書物で隙間なく押えて眠ることにした。そんなことがあって、山
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