してもそれははかない努力であり徒労であると思う。僕等は恋愛するのでも始めはゲーテの若きウェルテルの悩みを経て詩的からだんだんリアリスティに終始する様になると云う事も言えるでしょう。極言すればゲル(注、金の意味)が無ければ恋愛も出来ないというムジュンに満ちた事になりそうです。確かに僕等の考えの根源を大人は理解して居ない。極く単純にギャバ族とかアプレとか一口に言って片づける筋合の物ではないと思う(後略)」(原文のまま)
 この文章の要点を飜訳すると、若い者が今の社会に夢をもっても、社会の方が余りに物質的であるから、ロマンチックな夢はくずれ、リアリスチックにならざるを得ない。時代に抗してもはかない努力で徒労である。僕らは恋愛の始めに若きウェルテルの如く詩的であり、悩んでいるが、だんだんリアリストになるようである。アゲクには金《ゲル》がなければ恋愛ができないような、始めの志にくらべれば思いもよらぬムジュンにみちたことになりかねない。僕らが表面リアリスチックである根源を大人は理解していない、云々、という意味になるようである。
 つまり「恋をするにもゲル」というのは、彼らの事志とちがった思いもよら
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