ひかえ、たったナイフ一ツで百九十万円ふんだくろうというのである。ふんだくれたのがフシギではないか。成功を信じていたとすれば、山際の無邪気さもいささかナンセンスであるが、しかし何よりフシギなのは、易々《やすやす》と強奪された三人のダンナ方である。もしも戦後派という言葉があるとすれば、このフシギな三人づれのダンナ方がよッぽど戦後派的ではないか。警察のダンナ方が一時はこれを共犯と睨んだのは尤も千万で、それに価するだけの不可解な存在だ。もっとも、百九十万円がいくら大金だって、オレの金じゃないからな、という大精神かも知れない。
山際が捕まってから二世のマネをして、オオ、ミステイクと言ったというのは、バカらしいけれども、二世というフレコミで泊っていたあの際、あのようなことを言うのは、それほどバカげたことでもなかろう。
バカげた方はといえば、さッきの三人づれのダンナ方がどうしても犯人以上に奇々怪々的にバカバカしい。白昼である。はじめ大手町の何ントカ省前で二人降され、次に運転手が神田橋で降され、畑のマンナカではなくて、東京のマンナカ、何ントカ省という賑やかな官庁前や神田橋で降されて、犯人をつかまえ
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