し無邪気でもある。
二人の告白が、たった一ヶ所ピッタリ一致している事がある。そしてそれがこの事件の中心的なものを暗示しているのである。
山際の手記。
「犯行のプランはそこで大体決まったのです。つまり今簡単に家出をするといっても、現実的な見方で見ると[#「現実的な見方で見ると」に傍点]、たとえ二人が共かせぎしても[#「たとえ二人が共かせぎしても」に傍点]、ちょッと生活の安定は保つ自信はなし[#「ちょッと生活の安定は保つ自信はなし」に傍点]、そうかと云って時は切迫している。若し僕が犯罪を犯すことになれば多くの人を裏切り、しかも始めから犯罪者は僕だということが判り切っていると、その時の僕の心の悶え、苦しみ、女と自分の立場の板ばさみ、理性的になればなるほど、心の中は苦しく現在彼女の苦境は所詮僕の罪であると考えがきまると、どうすればよいか判らなくなりました。所詮人間として僕が弱かったのです。愛情の生かし方に難点があったのです」
犯罪に至る原因の一つとして「現実的な見方で見ると、たとえ二人が共かせぎしても、ちょッと生活の安定は保つ自信はない」と言っているのが、今日的である。
たしかに今日は
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