、佐文の告白はひどくリアルでハッキリしている。
「山際さんとは上京して数日くらいしてから階段や朝手紙を一階の宿直室まで受取りに行くときよく出会い知っていましたが、七月の終りごろだったか、ちょうどお休みの日、私が用事があって銀座に出ようと水道橋まで来ましたところ、後から追っかけて来られ、ちょッと話があると横道に呼ばれ、実は君と初めてあった時から君のことが忘れられない、君の気持をきかせてくれ、と迫られました。前々から山際さんは憎からず思っていましたのでつい「私もよ」と答えてしまい、その日は一しょに銀座へでて夜おそくまで遊びました」
 それから二ヶ月交際ののち、
「今でも決して忘れませんが、去る十日の夜、私は山際さんから迫られて処女をささげました。このことは私は決して後悔してはおりません」
 この二人の告白を対照すると、佐文は落着いているが、山際はヨタモノの柄になくとりみだしている。もっとも、事、恋愛に於てはヨタモノに限って却って神秘主義者になり、その感傷にひたりたがるムキがないでもない。しかし二ツの告白からうける感じは、佐文が大人であり、山際はそれにくらべて、よほどオッチョコチョイでもある
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