いにしても、大して悪いことはしていないし、できもしない、という彼の考えは、自己弁護ではなくて、彼が本当にそう思いこんでいると見ることができるであろう。
 彼は佐文の処女を奪ったことで「再び彼女の父の顔を見る勇気もないほど」でありながら、同時に、途中から引返して「僕達の仲を説明して理解と協力をあおごうと思った」と語っている。彼は許しを乞うたり、結婚を懇願したり、するような考え方を持たないのである。一面に於ては対等であり、父ですらもない。単に「説明して理解と協力をあおごう」と思っているだけだ。若造のくせに生意気だというのは当らない。若年にして独立独歩の志操あってのことであり、この態度は排すべきものではない。一面「罪悪感にかられて」というのも、正直な表現であろうと思う。
 通観して、彼は自ら悪党とも思っていないし、彼女の父という人間が、彼女の父である位置のほかには、対等以下のヒケメをもつ理由を知らないのである。だから、彼女の父が彼を浮薄な奴だと評したときいて、「若い男の心のプライドを傷けるに十分な四十男の世の見方でした」とガイタンしているのである。
 しかし、最も注目すべき告白は、そのすぐ次
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